むかしむかし・・・
昔々、大昔のお話です。
ある日かわいい栗の実がポロリと落ちてしまいました。 この頃の栗の実は柔らかくて色白で、 みんな大人になる前にリスや小鳥に食べられてしまい、 お母さんの栗の木はとても悲しんでおりました。
かぶと虫がやってきて、えんえん泣いている栗の子をみつけました。 「おお、よしよし。もう泣くんじゃないよ。」
ハリネズミもやって来て 「落ちてしまったんだね。一緒に遊ぼう」
そばに立っていた柿の木から、えい!と青い実が飛び降りました。 「大丈夫だよ、僕もいるよ」渋柿は友達がいなくてさびしかったのです。
かぶと虫とハリネズミと渋柿と栗の実は、こうして仲良く暮らしはじめました。
秋のはじまりの森の中は、静かな香りにつつまれて、 日溜まりの優しさや、落ち葉のあたたかさにあふれています。
それぞれひとりぼっちだったけれど、今は4人。 それはそれは楽しい毎日でした。
それでもお日様が「ごめんね」と言うのが聞こえたような朝、 つめたい北風が森を吹き抜けてゆきました。
冬です。 一番最初に渋柿がわかれをつげました。
「ぼくは干し柿に生まれ変わるんだ。もう一緒にあそべないけれど、 かわいい栗の子にひとつだけプレゼントをするよ。 ほら、渋皮のシャツだよ。これを着ていれば、少しは身を守れるからね。」 二番目はかぶと虫でした。
「わしはさようならだ。春には子供達が生まれるよ。 この固い服を着てごらん、鳥に食べられることもなくなるよ」
三番目にハリネズミは
「もう眠らなくてはならないんだ。この針をあげよう。 これで獣からも身を守れるよ。いつでもひとりじゃないからね。 強く生きてゆくんだよ」
こうして栗の実は、 渋皮と固い皮とイガイガに包まれて大人になることができました。 その頃から、栗の実はこんなに沢山の服を着るようになったのだと、 古い栗の木が話してくれました。
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